いくつか感想は持ったのですが、読み終えてみると、ちょっと途中で感じた感想はどれも陳腐な気がして、ここに書くのは気がひけるのですが。
いや、まず、死を覚悟していたにもかかわらず、文章の美しさに対する気迫がすごいなと。だから、マジ、お金のためじゃないし、生活のためでもないよね。美しい文章を書くのだというそのモチベーションの源泉は、だから、もっと崇高なものであることはもう間違いないわけで。
また、そのような意思、意志のピュアさに負けないくらい、実際、文章の細部構造もストーリーの流れも豪華絢爛で美しいと俺は感じます。「大正ロマン」っていう言葉は、いつ頃から登場したんだろ?大正時代にはもちろんそんな言葉は存在するはずはない。てことはだな、太平洋戦争後に、もしや、三島由紀夫が豊饒の海によって作り出した概念なんじゃないのかな。大正ロマンっていうのは。
あと、登場人物が英語で話すシーンがバンバン出てくる。小説内に英文が混じることは豊饒の海の場合はないんだけど、三島由紀夫本人も英語はペラペラなようだし、俺が思い込んでいた、「英語はある一定ラインを超えると日本語が下手になるのとトレードオフでしか上達できない」という考えは、どうも撤回せざるを得ないようである。外国語に通じ、情報や考え方を吸収しつつ、日本語で世にも美しい物語を紡いでるお手本が三島由紀夫だ。