表題の通り、数研出版の数学Cの教科書を、読み終わった。その感想を書く。IAIIBIIICと読んできて、これがラストだったんで、この6冊を読み通しての総括的な文章も、書いていきたい。
この数Cで扱う単元は、ベクトル(平面、空間)、複素数、二次曲線。あと、オマケに行列も。行列を使って、入り組んだマップの経路の数え上げをさせたりとか。
うん、一つ一つ、豊かな内容の単元が粒ぞろいで、ワクワク感を充分感じることができた。数学の楽しさを伝える、っていうのが、数IIIと差別化しての、数Cの領分なのかな。
この数学Cでも、相変わらず、教科書中の「練習問題」が、良いねえ。俺好み。平易な解説で、読み応えはある。あるんだけど、やはりこれは数学なり、ただ読んだだけじゃわかんないんだよね。そこで、練習問題を自分で手を動かして解いてみる、っていう作業が必須。で、この新編数学の練習問題は、変なひねりがなくて、かゆいところに手の届くストレートな良問が、ここぞというポジションを外さずに抜かりなく配置されている。本当に素晴らしい。これは、この数学Cの感想というよりは、だから、新編数学シリーズ全体に対して、俺は褒めてるわけなんだけども。
全然へんてこな例え話を持ち出すけど、昔、大阪をちょこっと一人旅した時、御堂筋をずっと歩いたんだよね。確か、北上していったんだっけかな。東京モンの俺は、歩いててびっくりしたんだけど、歩いていくうちに、街の顔がコロコロ変わっていく。船場の前後でこんなにも変わるんだ、などと、感動体験だった。
で、この新編数学シリーズでの数学の旅も、読み進めていくうちに、数学の景色がだんだん根本的に変わっていく、その変化が面白い。IAあたりでは、中学数学の尻尾を引きずっていて、至れり尽くせりのサポートが入る。が、IIBあたりでは、エンジンに火がついて、どんどこ数学の深い世界へと引き込む。そして、IIICあたりでは、その高校数学の旅もフィナーレへ。サポートがまだ行き届かない分野にまで足を伸ばし、さあ、ここから先は、質問する相手、師を自らの力量で探すことも含め、それが真の学問の道なんですよ…と、読者の背中を押す。全体として、見事な三段構成だ。
この教科書で学ぶ高校生の人は幸せだと思う。俺は、塾講師っていう立場なんで、この教科書をいかに活用するかっていうスタンスで、今後とも長くこの教科書と付き合っていくことになる。さらにチャート式とか過去問とかに取り組む際に、この新編数学シリーズの真の力がわかるだろう。この教科書による数学基礎力の土台作りは、どれくらい堅固かが明らかになる。
なんか、あれだな、内容を厳選して薄く作ってあるし、この新編数学シリーズは、網羅性にはあんまり強くなくって、それより、「問題提起書」とでも言ったらいいかな、数学に対する感性を伸ばそうとしてる書物のように感じるけどね。例えばこの数学Cの二次曲線に関する124ページの記述でも、離心率で分類して、楕円、放物線、双曲線を一元的に解説してるけど、ここんとこの狙いは、完全理解させようとしてるんじゃなく、こんなに数学の各単元は深くて楽しいんだよ、って言ってるんでしょ。
基礎と応用のバランス感覚も良いよね、章扉の人物紹介でも物理学者のギブスと数学者のガウスがフィーチャーされてる。数学だけの世界に閉じこもってたら煮詰まっちゃうし、かと言って応用のためだけに道具のように数学を使うだけでも数学のワクワク感が犠牲になるじゃん?そこらへん、だから、基礎と応用の両方が大事なんですよ、という執筆陣の姿勢がよく伝わってくる。そういうところも、俺は非常に好感を持ちました。