説明責任の行き届いた社会を目指して

大昔、生物学者になりたかった40過ぎが、今また再チャレンジ

カズオ・イシグロ著『浮世の画家』読書感想:戦争前後の変化の客観的な描写が秀逸。何事も挑戦しない人への批判は勇気あるなと思った

カズオ・イシグロの『浮世の画家』を、今、読み終わった。読了直後のタイミングで感想文をしたためておきたく、このブログを書いている。

非常に面白かった。太平洋戦争前後で世の中がどう変わり、人々はその変化の中でどのような紆余曲折を経験したのか、感じられるような気がした。

これが原著は英語なんだなあと思うと、しみじみ考え込んでしまう。日本文化史の最重要ポイントをズバズバ突く内容だと思う。けど、日本語文化圏内での発想法では、こんな本は、出てこなかったんじゃないか。やっぱし、カズオ・イシグロみたいに、日本語文化圏の外に身を置いて、そのために客観的な視点を獲得した人じゃないと、こんな冷静に核心を撃ち抜けないよ。

祖父母を思い浮かべながら、終始、この本を読み進めた。戦争の時代を生き抜いてきた祖父母は、本当に大変だったんだろうなあ、とか、幼い俺を相手する時、心中、祖父母はどんな想いだったのだろうか、とか、ぐるぐる考えた。

このまえ同じ著者の『日の名残り』を読んだときにも感じたことだが、ラストがさりげなくて良い。また、ストーリーの中で、キャラ一人一人への著者の思いやり、愛を感じる。

挑戦しない人へのディスリスペクトのような話が後半に繰り返し出てくるが、これは、そうだなあ、この本を最も特徴づける要素だとは思うんだけど、うーむ。大勝負に出たことがないと自分に引け目を感じてるような人がここらへんを読んだら、ちょっと不愉快な気持ちになるかもね。日本だのイギリスだの関係ない、こういうたぐいの話をザクッと書いたカズオ・イシグロは、少なくとも本物の「作家としての良心」を持ち、その思いを実行に移した作家だろう。万人受けする箇所じゃないんで。

他の最近の著書とかも読んでみたいと強く思った。

柳美里の『ゴールドラッシュ』読書感想:主人公は罪を犯したが、反省し罪を償えば許されるだろう

柳美里の『ゴールドラッシュ』を、今、読み終わった。読了直後のこのタイミングで感想文をしたためておきたく、このブログを書いている。

主人公が、ちゃんと名前があるにも関わらず、小説内で終始「少年」と呼称されるのが特徴的。横浜内外の各所を巡って物語が展開し、そのほとんどを知る俺の心にストーリーの一つ一つが突き刺さった。

大昔に一回読んだはずだが、今回再読してみて、全く完全に忘れてしまっていて、今回はじめて読んだように感じた。読んでよかった。

人を殺すまでの状況説明と、殺した後の心の逡巡の描写は、リアルに感じた。

人は、他の人とのつながりを求めてる。それが諸々の事情で、そう思えないこともある。けど、やっぱり、他の人とのつながりを求めているのは変わらない。

罪とはなんだろう。取り返しのつかないことというのがこの世には確実にあって、許されない罪を俺に対して犯した人は絶対に許さない、また、取り返しのつかないことをしてしまった過去の自分の行為も、永遠に許されることはないのだという考えが、夜、一人でいるとき、何度も俺の頭をよぎる生活を長く続けてきた。しかし、本当にそうなのだろうか。

この少年の心の動きの描写をこの小説で読み進めてみて、確かにこの主人公は罪を犯したが、反省し、服役するなどして罪を償えば、許されて、社会復帰するのが相当だ、と、俺は思う。

許されない罪、という概念が、そもそも、幻影だったかな。

楳図かずお大美術展の感想:作品の質と量がすごかった。ただ漫画『わたしは真悟』を事前に読んでないとキツい

六本木ヒルズの美術館でやってた、「楳図かずお大美術展」に、行ってきた。

連作の絵画が100点くらい並んでた。漫画のように、ストーリーになって、絵が続きものになってた。でも、シチュエーション的にもろに美術館なので、漫画をじっくり読むようにはいかない。だって、他の人もたくさんいる中、絵は一枚しかないから、場所を譲り合わなきゃならないし。だから、漫画を飛ばし読みするようにサーッと見ていった。

楳図かずおの有名な漫画『わたしは真悟』を、知ってますか。俺は読んだことあるんだけど、今回の展覧会の絵のストーリーは、この『わたしは真悟』の続編のようになっており、『わたしは真悟』を読んだことのない人が飛び込んですぐにわかるのは非常に困難だと思う。

俺は、まあ面白かった。また、漫画よりも、絵の一枚一枚に対して手が込んでるように感じた。もう、漫画の一コマというより、やはり、絵画と呼ぶべきだろう。この展覧会の趣旨にも沿う感想になるが、だから、楳図かずおはもうただの漫画家というのからはみ出しちゃってるよね。存在がでかすぎて。

ちょっと暗い部屋があり、その中には原画となった鉛筆画がズラッと並んでた。あれを見て、ああ、楳図かずおは本当にすごい人なんだなと思った。紙と鉛筆だけであんな迫力のある絵をあんなにたくさん書けるなんて。

ショップでは、『わたしは真悟』の、悟と真鈴が東京タワーからヘリに飛び移るシーンの絵葉書と、楳図かずおハウスの形のキーホルダーをお買い上げ。ごちそうさまでした。

まあ、楽しかったです。何しろ作品の熱量がすごい。一枚一枚が気合が入ってて、しかもそれがたくさんたくさんあるのに驚きました。

2022/03/11金の振り返り:夕方に起きた

いやあ、今日は、ひどいものだった。コロナ3回めワクチンの副反応を見越して、予備日に設定してたことが完全に裏目に。なにも予定がなかったもんで、ズルズルと二度寝を繰り返してたら夕方になっちゃった。まあ、ここ最近、目を三角にしてガリガリいろんなことに取り組んだことも多々あったから、ここらで完全オフ、というのも悪くはないのだが。それにしても、とんでもなくだらけてしまった。

夕方からは、なんとか、外出できて、頭もまともに動き出した。で、オンライン英会話のQQ Englishって会社の無料体験がまだ残ってたので、今、今夜レッスンを2コマ予約した。その他、日本人スタッフにいろいろ話を聞けるっていう予約も入ってるんで、今夜は盛りだくさん。そりゃ、夕方まで寝てりゃあ、夜くらい頑張んないと、体力が有り余っちゃって寝付けないからな。

夕食に食べたタイ風グリーンカレーってのが、マジでタイ米使ってたりとか、いろいろと方向性を間違えてて困った。俺は米はやっぱり国産が良い。まあ全部残さず食べたけどね。

そんなこんなな一日でした。明日は、まともに生きたい。

「君が僕の息子について教えてくれたこと」視聴感想:『自閉症の僕が跳びはねる理由』の理解が深まり、良かった。

自閉症の僕が跳びはねる理由』著者の東田直樹と世界中の読者達の関わりを特集したドキュメンタリービデオ、「君が僕の息子について教えてくれたこと」を見た。

Dailymotionで見ることができた。

自閉症の~』を先に読んでからこのビデオを見たというパターン。世の中、逆にビデオから見たっていう人も多くいるだろう。俺の場合は、まず文章から著者はどんな人なんだろうと想像してたんで、実際接写のクリアな映像で本人の動いてる姿を見ることができて、うれしかった。

本を読んで著者の東田さんに関心を持ったら、このビデオも是非見ることをおすすめしたい。本の理解もより深まると思う。

ただ、本を読まずにこのビデオを見ただけでは、浅い理解にとどまってしまう。『自閉症の~』が、メガトン級の良書だからなおさらだ。なんでジャンプし続けるかの理由を当事者本人が説明した、と、言葉にすればそれだけだが、それがどんなに貴重で大変なことだったのかが、このビデオを見ると痛いほど感じ取れる。そして、この本が海外に与えた影響もビンビン伝わってくる。ノルウェー自閉症の当事者の方が、跳びはねる理由を自分で説明してるシーンなど、印象深かった。

素晴らしいドキュメンタリービデオだった。

『続・自閉症の僕が跳びはねる理由』読書感想:著者の成長を感じられて楽しかった

発達障害について知ろうとする中で、『自閉症の僕が跳びはねる理由』に引き続き、『続・自閉症の僕が跳びはねる理由』を、今、読了した。

前著同様、この『続~』も、日本語の良さは際立っている。

文学的?には、前著の方が言葉一つ一つの粒が立ってたというか、磨き抜かれたキレの良さを強く感じた。けど、これは全く的はずれな注文であることは自覚してるつもり。本の出版などの社会との関わりの中で、著者の東田が、より、いわゆる「普通」になってきた、ということなのだろう。前著の『自閉症の僕が跳びはねる理由』は、言葉によるアウトプットの困難さに七転八倒しながらもんどり打ってひねり出した文章だったのに対して、『続~』時代になると大勢の会衆の前で講演するなど、言葉による表現がよりスムーズになってきた分、彼の文章もより普通の作家の文章に近づいてきたということだろう。それは喜ばしいこと。ただ、『自閉症の僕が跳びはねる理由』は今後も永遠に輝いていくことだろう。岩崎恭子が14歳でつかんだ金メダルのようなものだ。

『続~』の楽しさは、前著と比較しながら読むことで、著者の東田の成長進化をはっきりと感じ取ることができる点にあると思う。彼と同時代に生きていることがラッキーなのであり、ネットで検索したらかなり他にも精力的に著書を出版したりしてるようなので、どんどん他の本も読んでみたいと思う。可能なら講演で生の姿を見てみたい。

面白かったです。

『自閉症の僕が跳びはねる理由』読書感想:自閉症当事者によるいわゆる異常行動の解説本。非常に名文。

東田直樹の、『自閉症の僕が跳びはねる理由』を、図書館で借りて、今、読み終わった。直後のこのタイミングで読書感想文をしたためておきたく、今、このブログを書いている。

言語感覚が非常に繊細で、単語一つ一つを使いこなしており、見事な文章だ。こんな文章を紡ぎ出せる人間を、この社会は「障害者」と呼ぶ。全くおかしな話だと思った。東田さんは、人並みでない面に関してはそれを自覚し周りに助けを求めることができ、そして優れた面に関してはその才能を自覚し、その才能を生かして社会に貢献していこうとしている。この本がまさにそのような営みの集大成だ。溢れる文才を駆使して、「自閉症の人たちを社会がもっと理解し受け入れ、そして社会全体がより良くなっていくように」というビジョンを一冊の本の形にまとめ上げた。それがこの本である。

諸事情で、発達障害について学ぶ必要を感じていたところ、友人に勧められてこの本を知った。大変良い本なので、多くの人に読んでもらいたい。この場で僕から皆さんに対してもお勧めします。

社会でいわゆる「障害者」と呼ばれる側の本人の筆による、普通でない思考・行動の解説本。海外を含め類書はないかあっても非常に珍しいのだろう。翻訳版も出版されている。

感動した。