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カズオ・イシグロ著『浮世の画家』読書感想:戦争前後の変化の客観的な描写が秀逸。何事も挑戦しない人への批判は勇気あるなと思った

カズオ・イシグロの『浮世の画家』を、今、読み終わった。読了直後のタイミングで感想文をしたためておきたく、このブログを書いている。

非常に面白かった。太平洋戦争前後で世の中がどう変わり、人々はその変化の中でどのような紆余曲折を経験したのか、感じられるような気がした。

これが原著は英語なんだなあと思うと、しみじみ考え込んでしまう。日本文化史の最重要ポイントをズバズバ突く内容だと思う。けど、日本語文化圏内での発想法では、こんな本は、出てこなかったんじゃないか。やっぱし、カズオ・イシグロみたいに、日本語文化圏の外に身を置いて、そのために客観的な視点を獲得した人じゃないと、こんな冷静に核心を撃ち抜けないよ。

祖父母を思い浮かべながら、終始、この本を読み進めた。戦争の時代を生き抜いてきた祖父母は、本当に大変だったんだろうなあ、とか、幼い俺を相手する時、心中、祖父母はどんな想いだったのだろうか、とか、ぐるぐる考えた。

このまえ同じ著者の『日の名残り』を読んだときにも感じたことだが、ラストがさりげなくて良い。また、ストーリーの中で、キャラ一人一人への著者の思いやり、愛を感じる。

挑戦しない人へのディスリスペクトのような話が後半に繰り返し出てくるが、これは、そうだなあ、この本を最も特徴づける要素だとは思うんだけど、うーむ。大勝負に出たことがないと自分に引け目を感じてるような人がここらへんを読んだら、ちょっと不愉快な気持ちになるかもね。日本だのイギリスだの関係ない、こういうたぐいの話をザクッと書いたカズオ・イシグロは、少なくとも本物の「作家としての良心」を持ち、その思いを実行に移した作家だろう。万人受けする箇所じゃないんで。

他の最近の著書とかも読んでみたいと強く思った。